不倫の代償は「丸刈り」ーー。妻から突きつけられた衝撃の和解条件に、悲鳴をあげた夫が、弁護士ドットコムに相談を寄せました。
相談者は既婚で子どももいる男性。先日、友人女性の家に泊まったことが妻に発覚してしまったそうです。相談者自身は「ソファで寝ており、やましいことは一切ない」と主張していますが、妻は「泊まった時点でアウト」と激怒。
妻は離婚を回避するための和解条件として、いくつかの要求を提示し、その一つが「坊主にすること」だったといいます。相談者は「仕事上、坊主はよろしくない」と拒否しているものの、妻の怒りは収まりません。
夫婦喧嘩の延長ともいえるトラブルですが、相手の身体に変化を強いるような「私的制裁」は、法的にどこまで許されるのでしょうか。たとえ不貞行為へのペナルティだとしても、相手の意に反して髪を切るような行為は犯罪になりうるのか。夫婦間のトラブルに詳しい柳原桑子弁護士に聞きました。
●「坊主を強いることは許されません」
──夫婦喧嘩の延長ともいえるトラブルですが、相手の身体に変化を強いる制裁は、法的にどこまで許されるのでしょうか。
妻からすると夫のとった行動は、容易に許せるものではなかったとしても、自ら何らかの制裁を加えるという私的制裁は禁止されています。
たとえ相手が違法(不法)行為をしたとしても、原則としてその人にも基本的人権の保障は及びます。よって、たとえ自分は正義で、相手が悪いと思っても、相手の人権を侵害するような行為をすることは許されません。
夫は「仕事上、坊主はよろしくない」と拒否しているとのことであり、意に反する行為であるため、これを強いることは許されません。
●犯罪やモラハラに該当する?
──たとえ不貞行為へのペナルティだとしても、相手の意に反して髪を切るような行為は犯罪やモラハラに該当する可能性もあるのでしょうか
夫の意に反して、無理矢理髪の毛を切り坊主にする行為は、人の身体に対する有形力の行使として暴行罪(刑法208条)や傷害罪(刑法204条)に該当する可能性があります。
妻が自ら切る・剃るのではなくても、離婚回避のための条件のひとつにするといって聞か ない場合、強要罪(刑法223条)に当たる可能性があります。
モラハラは、継続して一方的に相手を支配して人格否定などの言動により精神的に傷つける態様を言います。
坊主を強いる行為は、精神的苦痛を伴わせる行為でありますが、現在の相談者と妻は、夫婦喧嘩の延長といえる状況にある中での言動である上、それまでの背景事情が明らかではないので、モラハラに該当するとは言い切れません。