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犯罪予告者「GPSで監視を」山東議員が発言…弁護士「プライバシー権侵害で違憲」
2016年07月30日 15時16分

自民党の山東昭子元参院副議長が7月28日、国会内で記者団に「(犯罪者を監視するために)全地球測位システム(GPS)を利用するなど、きちんとした法律を作っておくべきではないか」と述べたことが報じられ、波紋を広げている。

発言は、相模原市の障害者施設での刺殺事件を受けてのものだ。犯罪を予告した人物や、再犯率が高い性犯罪の前科がある者に対応できる法整備の必要性を説いた。

「犯罪者をGPSで監視せよ」というテーマは、奇しくも今年の司法試験の論文式試験で、憲法の問題として出題されている。犯罪の前科がある人物などをGPSによって監視する仕組みを実現しようとした場合、憲法上の問題になるということだろうか。秋山直人弁護士に聞いた。

自民党の山東昭子元参院副議長が7月28日、国会内で記者団に「(犯罪者を監視するために)全地球測位システム(GPS)を利用するなど、きちんとした法律を作っておくべきではないか」と述べたことが報じられ、波紋を広げている。

発言は、相模原市の障害者施設での刺殺事件を受けてのものだ。犯罪を予告した人物や、再犯率が高い性犯罪の前科がある者に対応できる法整備の必要性を説いた。

「犯罪者をGPSで監視せよ」というテーマは、奇しくも今年の司法試験の論文式試験で、憲法の問題として出題されている。犯罪の前科がある人物などをGPSによって監視する仕組みを実現しようとした場合、憲法上の問題になるということだろうか。秋山直人弁護士に聞いた。

●「プライバシー権」の侵害にあたるのか?

「犯罪を予告した人物」や、「性犯罪の前科を有する者」の行動をGPSで監視するための法整備の議論が出ているとのことですが、まず、犯罪を予告した場合、例えば、「●月●日、●●施設で大量殺人を敢行する」などと予告すれば、それ自体が威力業務妨害罪等の犯罪に該当することが多いです。一方、犯罪を予告した人物に、それだけでただちにGPSを付けて監視するというのは、想定し難い議論です。

むしろ、相模原市の障害者施設での刺殺事件が、被疑者の措置入院が終了して約4か月後に起きた事件であることから、今回の事件のように、措置入院後に社会に戻った精神障害者に対して、GPSの装着を義務付け、その行動を監視できないかといった提案が想定されているのではないかと思います。

また、性犯罪の前科を有する者の服役後に、再犯防止のために、GPSを装着させてその行動を警察等が監視し、例えば対象者が学校、公園の周辺にいるような場合に警察官がその行動を警戒するといったことも想定されているのだろうと思います。

そのような議論において法的に最も問題になるのは、憲法13条で保障されている「プライバシー権」の侵害です。憲法13条は、国民の私生活上の自由が公権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しており、個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を有するものとされています(最高裁平成20年3月6日判決/住基ネット事件)。

憲法で保障されている人権を、法律等をもって制約することが許されるかどうか(違憲とならないか)は、立法目的と規制手段の両面から検討することが必要と考えられています。

●「犯罪の再発防止」という目的自体は重要だが…

GPS装着の立法目的については、今回のような痛ましい事件を防止し、社会の安全を確保する、性犯罪の再発を防止するといったものであり、重要と考えられます。

しかし、規制手段として、いきなり「GPSでの監視」というのは、短絡的であるように思います。

GPSの装着が義務付けられるとなると、対象者は、日常生活・社会生活の中で、いつ、どこにいるか、その所在を常時公権力に把握され、監視されることになります。四六時中動向を見張られているというのは、極めて大きな精神的ストレスとなるでしょうし、その行動の自由にも大きな萎縮的効果をもたらすでしょう。「こんなところにいったら警察に疑われるかもしれない」と考えて、自由に行動することができなくなるでしょう。

こうしたGPSによる所在の常時監視は、プライバシー権の侵害の度合いが大きく、実質的にみて新たな刑罰を課すことにも近いように思います。

憲法上の人権の重要性から、立法目的が重要であっても、より人権の制約の程度が低い、他の手段はないかを検討する必要があると考えられます。

今回のケースでは、措置入院終了後のフォローアップ体制が何もなかったことが問題となっています。現行の精神保健・精神障害者福祉法では、「措置入院を継続しなくても、精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがない」と認められた場合には、ただちに退院させなければならないとされていますが、退院後も一定期間の通院を義務付けたり、退院後も公的機関が連携して、対象者の援助体制をつくる制度改正が考えられ、その方が対象者の人権を制約する程度は低いように思われます。

性犯罪についても、服役後に、医療機関・自助グループ等によるカウンセリングプログラムの受講を義務付け、再犯防止のために、対象者自らに考え方・行動パターンの方向修正を促すといったやり方の方が、再発防止の実効性もあり、人権を制約する程度も低いのではないでしょうか。


このように、立法目的が重要であっても、より人権の制約の程度が低い手段が他に存在すると言えるので、GPS装着という規制手段は、必要な限度を超えたプライバシー権の侵害であり、違憲と考えられます。

(弁護士ドットコムニュース)

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