9886.jpg
入社1日目から「有休取得」可能にする改革案…転職促進の効果はあるか?
2017年02月23日 09時50分

入社、転職直後でも、有給休暇を取得できるようになるかもしれない。政府の規制改革推進会議が1月下旬、労働基準法などで定められる休暇制度の改善に関する提言をまとめた。この中で、現在では、有給休暇を取得できるのは、入社後7カ月目になってからだが、これを勤務開始日から1日を与え、その後も1カ月ごとに1日ずつ付与する仕組みを提案している。

現在の有給休暇は、どのように定められているのか。また、有給休暇の取得をめぐる法整備として、改めるべき点はないのだろうか。岡村勇人弁護士に聞いた。

入社、転職直後でも、有給休暇を取得できるようになるかもしれない。政府の規制改革推進会議が1月下旬、労働基準法などで定められる休暇制度の改善に関する提言をまとめた。この中で、現在では、有給休暇を取得できるのは、入社後7カ月目になってからだが、これを勤務開始日から1日を与え、その後も1カ月ごとに1日ずつ付与する仕組みを提案している。

現在の有給休暇は、どのように定められているのか。また、有給休暇の取得をめぐる法整備として、改めるべき点はないのだろうか。岡村勇人弁護士に聞いた。

●現在の法律はどうなっている?

「現在の法律では、使用者は、雇入れの日から6カ月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、10日の有給休暇を与えなければならないとされています(労働基準法39条1項)。

それ以後は、1年ごとに、その期間の全労働日の8割以上出勤すれば、次の1年間の年次有給休暇が与えられることになり、与えられる有給休暇の日数(法定付与日数)は、勤続年数が長くなるにしたがって、次のように20日まで増えていきます(労働基準法39条2項)。

【継続勤務期間(法定付与日数)】

・6カ月(10日)

・1年6カ月(11日)

・2年6カ月(12日)

・3年6カ月(14日)

・4年6カ月(16日)

・5年6カ月(18日)

・6年6カ月以上(20日)

なお、労働基準法は、最低限与えなければならない有給休暇の日数を定めたものですから,使用者が法定付与日数を超える日数の有給休暇を労働者に与えても構いません」

入社から半年に満たない社員が、休む時には「欠勤」になってしまうのか。

「法定付与日数を上回る有給休暇を付与したり、入社6カ月に満たない労働者に対して一定日数の有給休暇を付与したりしている企業は一部でしょう。多くの企業は、労働基準法に定められたとおりの有給休暇制度を採用していると思います。

そのため、入社して6カ月に満たない労働者が、病気やけが、身内の不幸などで仕事を休まざるを得ない場合、一般には欠勤扱いとなり、休んだ日の分の給料はもらえないということになります。ただし、会社の規則によっては『慶弔休暇』制度などが設けられており、欠勤とならないケースもあるでしょう」

●提言に転職促進の効果はあるか?

規制改革推進会議の提言を、岡村弁護士はどのように評価するのだろうか。

「今回の規制改革推進会議・人材ワーキンググループの意見は、入社(勤務開始)して6カ月間勤務しなければ有給休暇が付与されない現在の法制度が転職者に不利な仕組みになっていることを問題視し、勤務開始日から一定の年次有給休暇が付与される仕組みとすべきであるとしています。

たしかに、現在の年次有給休暇の制度は、転職者に不利な仕組みであると言えますが、転職直後から一定日数の有給休暇が付与されることで転職が促進されるかといえば、その効果には疑問があります」

どういうことだろうか。

「『転職すれば有給休暇がなくなってしまうから転職を控える』という人は稀でしょう。

転職による人材の流動化がなかなか進まないのは、有給休暇以外の要因が考えられます。たとえば、転職を繰り返すことを良しとしない考え方が根強いこと、勤続年数が長い人ほど給与、退職金の金額が有利になる賃金体系を採用している企業が多いことなどによるところが大きいのではないでしょうか」

●「有給休暇を付与されても、取得できないことが問題」

有給休暇について、他に必要な改革はないだろうか。

「入社や転職したばかりで、会社に対する貢献がまだ少ない従業員に対しても、有給休暇の付与を義務付けることは使用者側にとっては抵抗もありそうです。特に、中小・零細企業にとっては負担になると思います。

使用者側の負担が増すことで、かえって新規の雇用を思いとどまらせる結果になってしまっては意味がありません。今後、使用者側の視点も含め、幅広い観点から議論がなされる必要があると思います。

これまでも、わが国における有給休暇の取得率の低さがたびたび問題とされてきました。むしろ有給休暇を付与されても、それを取得できないことが問題であると思います。

使用者が、毎年、年次有給休暇の一部について時期を指定して確実に取得させなければならないことなどを内容とする法改正案が提出され、有給休暇の取得促進のための法改正が議論されています。付与された有給休暇を労働者がきちんと取得できるようにする仕組みを考えていくことが引き続き重要であると思います」

(弁護士ドットコムニュース)

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る